すまい方/アトリエ379
住人同士が交流するきっかけを大家さんが積極的につくっているユニークな賃貸住宅がある。住み手自身が企画や設計にかかわる「コーポラティブハウス」や近年増えている「シェアハウス」とも違う「集まって住むかたち」を見てみたい。嵐が通り過ぎた次の日、訪れた。
写真:宮田雄平
「人でまちは変わります」
「つながる暮らし」をテーマにつくられた「アトリエ379」は、名古屋の北西部、庄内川のすぐ北側にある。企画・建設・管理を担っているのは、地元に根付いた不動産業を営んできた伊藤貴之・菊代夫妻だ。
伊藤夫妻が自社で所有しているアパートの建て替えを考えたのは、10年ほど前。企画を担当する菊代さんは、もともとインテリアの新しい素材をみつけたり、選んでくるのが大好き。リノベーションスクールに参加、インテリアコーディネーターの資格をとるなど、住むことの勉強を続け、アトリエ379のプランニングはすべて考えた。
2014年に竣工したアトリエ379の大きな特徴は、「みんなのリビング」という共有スペースがあることだ。住人は無料で使えるほか、有料で近隣の人たちも使用することができる。
「ここは、建物でなくまちをつくろうという意識でつくりました。建物は箱ですよね。まちを変えるのは人だと思っています。見学にきた人には、家を開くことを前提とした『住み開き』という暮らし方を提案しています。」と、菊代さん。2017年から約1年間、古民家を活用した「三ツ川食堂」を運営してみて、まちづくりの楽しさとむずかしさを知ったという。全部で18世帯の住人は20代から40代。みんな顔見知りで、偶数月には持ち寄りのご飯会を開催している。取材にうかがったのは、年に一度、アトリエシェフ(住人のひとり)のお料理が楽しめる「ハロウィーンパーティー」の日。その前に、実際に住んでいる部屋をのぞかせていただいた。
もくじ
ここではじめよう!
Aタイプ2LDK(60.27㎡)
取材の日に引っ越してきたメグさん。看護師をしていたが、病気を根本から治すということは?という疑問を持ち、退職して勉強をはじめる。腸を整えることで体質改善し、自己免疫力を高めることを目的とするサロンを開きたいと、新しい住まいを探しはじめ、アトリエ379にであった。2019年11月中旬、「魔法のアトリエHOSHINEKO」を開業予定だ。





前の住人がピンクに塗っていた壁を引っ越しに先立って塗り替えた。DIYは未経験だったが、菊代さんが色選び、道具の貸し出しから塗り方指導まで全面サポートしてくれるので、心強かったとか。
おもいきりDIYを
Bタイプ1LDK(42.56㎡)
ワキさんは、リノベーションサイトで伊藤夫妻の管理する一連のビルのことを知り、興味を持った。入居すぐから、さまざまな部分に収納を造るなど、自分らしい部屋にカスタマイズしてきた。「お金をなるべくかけずに自分らしくしたい。だったら自分でつくろう、と」。父親の趣味が日曜大工で、ログハウスをつくってしまうほどの腕前。ワキさんが親の影響をうけたのは間違いない。おととしから、雌猫のこゆきが仲間に。ひとりと一匹の暮らしを楽しんでいる。





自然に親しんで
Cタイプ2LDK (65.77㎡)
マツさん夫妻は、結婚にあたってお互いの実家の中間あたりで賃貸を探し、2010年、伊藤夫妻の管理する明福ビルに入居。気に入って住んでいたが、子どもができたのを機にもう少し広いところにと、アトリエ379への入居を決める。隣の人といっしょにごはんを食べにいったり、春はすぐ近くの蛇池公園で花見をしたり、ここでの暮らしを満喫している。特に気に入っているのは、LDK隣の大きな窓のあるコーナー。窓際のベンチに座って、子どもと星を見たり、雷を観察するのがなによりの楽しみだ。





顔合わせや入居のごあいさつも



パーティーは19時からと聞いていたが、30分前に住人が何人かバケツやぞうきんを手に集まってきた。毎回ごはん会の前にはみんなでお掃除タイムがあるのだとか。共用部分の手すりや玄関ドア外側を雑巾がけ。子どものうちから「みんなで住む場所をみんなできれいにする」意識を持てたら素敵だ。




19時を過ぎると、名探偵ホームズや海賊に扮装した住人たちが続々と集まってきた。アトリエシェフによる豪華なお料理も登場! そしておなかも満たされてきたころに大家さんのリードで自己紹介がはじまった。当日用事があってフルには参加できない住人も少しだけ顔をだしたり、この日に引っ越してきたメグさんもご挨拶に。こんな楽しい場で顔合わせができたら、ふだんから挨拶したりと気軽なつきあいがはじまるだろう。万が一の災害の時だって、自然に助け合えるにちがいない。
取材をきりあげて帰ってきたら、菊代さんからメッセージが届いていた。「みんなはワキさんの家に遊びに行き、王は洗い物。まだまだ夜のお話し会は続いています。これが同じ建物の中に暮らす楽しみですね」


アトリエ379の詳細はこちら → http://atelier379.jp