すまい方/ペリカンビル
一宮市北部にあるペリカンビルを最初に訪ねたのは、棲不動産掲載の依頼を受けて。 わけあって購入した中古ビルの最上階に家族で住みながら、1階、2階を仕事場として使ってくれる人に貸したいとのこと。当時、一部の部屋には知り合いが入っていたが、これからは間口を広げていきたいと連絡をくださったのだ。 まだ幼い子どものいる若々しい伊藤夫妻。ユニークなかたちのビルは、これから出航する船のようにも見えた。
以来、6年。何組もの方が棲不動産経由で入居し、ありがたいことに現在は満室になっている。 今年の春、夫の章浩さんから「ようやく自分たちの住居部分の改修が終わりました!」という知らせを受け取り、再訪した。
自分たちらしい棲家を求めて
「こんにちは!」元気な声が迎えてくれる。
珈琲をいれてくれたのは、ふたりの子どもたち。こんなに大きくなったんだ。
これまで家族4人で住んでいた4階が夫婦の寝室に。ヨガ教室などに使われていた3階が、LDKと水回り、子ども部屋、章浩さんの仕事部屋に変身していた。
当初、ペリカンビルの近くある畑のところに家を新築するという計画もあったという。
でもいろんないきさつからこのビルを手に入れたことで、考えが変わった。
「新築だと要望がきりなくふくらんでしまうけれど、準備できるお金は限られますよね。ここを生かしながら住んでいくほうがしっくりくるし、自分たちの表現ができると思った」と章浩さん。
長男の正人くんが生まれてまもないころ。妻の尚子さんには、子育てするときに、いろんな人にかかわってほしいという思いもあったという。実際、コロナ渦で小学校が休校になったときに、入居者のひとりが仕事場に連れてきた子どもと長女のなずなさんが仲良く遊んでいてくれた。子どもたちが帰ってくる時間に夫妻が家を空けるときがあっても、ビルに誰かがいてくれると思える安心感は、なにものにも代えがたい。
なんとなくの距離感で
現在、4階建てのビルの中にひとつの家族と、働く場として使っている5組が同居している。同じ建物を使うなかで気をつけていることは?という質問には、快適で仕事がしやすい場づくり、干渉しあわない、気持ちのいい挨拶ができる、なんとなくの距離感で、という答が、すぐに返ってきた。
階段やトイレなど共用部分の掃除は、人任せではなく、ご夫妻自らが。入居者と顔を合わせる機会が増えるし、人の出入りなどもわかるという。「入居者さんも、このビルの雰囲気も、自分たちといっしょに年をとっていくのだなあと最近思います。若いころは時にはマルシェをしたり、たくさんの人にこのビルを知ってほしいと思っていた。いまは スモールギャザリング。小さな集まりから、無理のない、人が人を呼ぶかたちでつながっていければと」
ペリカンビルは1989年築。2011年にここを購入したときから、30年という時間を意識していた。
「このビルの寿命がそのくらいかなあと。それに30年計画でと思えば、あせらないでいろいろなことにじっくり取り組めます。最後の10年は気の合う人たちと暮らす老後の家にしたいって、もう決めてるんです」
そう微笑みながら話す二人は、本当に楽しそう。これまできちんと家に向きあい、くらしを耕し、試行錯誤しながら家を育んできたからこその笑顔なのだ。
家も人も、ともに成長する。そんな住まい方を見せていただいた。
ペリカンビルの詳細はこちら → http://www.jiyukukan.net/wp/pelican/